ヤバ……。

もうどうやってもごまかせない状態。
私のブラウスは肩まではだけ、柊介は私をしっかりと抱きしめたままその肩に唇を寄せていた。

「ごごごごごめんなさい……! 忘れ物しちゃって……おじゃましましたー!」

こういう時に発するのはやっぱり「おじゃましました」なのね……。
そんなどうでもいい考えしかできないくらい私の脳内は、衝撃と絶望で完全ショートしていた。

ついに、バレてしまった。私と柊介の関係が。
しかも一番最悪なパターンで。

「ああもう! 柊介のせいよ!」 

押し退けて悪態をつくものの、柊介は憎らしいくらい余裕綽々の様子で笑みまで浮かべて、

「いいじゃないか別に」

と、平然と言い切る。

「良くないわよ! しかもあのコかなり顔が広いわよ。明日には社内中に知れ渡っているわよ!」
「へぇ、そりゃ頼もしいな」
「頼もしくない!」

願ったり叶ったりだ、と言わんばかりに柊介は楽しそうだ。
この男はほんとにもう! そりゃあ嬉しいわよね、柊介は私との関係を社内で秘密にしていることがもどかしくてしょうがないんだから!

「いい加減、腹を決めろよ、都」
「……」
「式も六カ月後には控えているんだ。招待状のことを考えると、そろそろ報告しておいたほうがいいって話していただろ?」 
「そうだけど」

だったらなおさらこんな事態は不本意だ―――と、しかめ面を浮かべる私の頬に、柊介はキスをした。

「観念して、明日からは付けろよ、婚約指輪」
「……わかってるわよ」

二か月前、柊介が満を持して捧げてくれた婚約指輪。
もちろん、もらった瞬間は人生最高の幸せを得たかのように感じて柄にもなく涙ぐんでしまったけれど、それきり箱の中に仕舞いこんでしまっていた。
柊介には悪いと思ったけれど、仕事に付けていけないため、付ける機会がないからだ。

けど、結婚報告をすることが決まった明日からは、付けていってもなんら問題ない。

あんな大きなダイヤがついた指輪……会った瞬間気付かれるよなぁ……。

そうなれば最後、根ほり葉ほり問い質されるのは目に見えていた。
その煩わしさと気恥ずかしさを思うと、明日が憂鬱で仕方がない私なのだった……。