ふと首筋が気になって手を添える。…大丈夫。薄手のハイネックに覆われている肌が人目にさらされることはない。キスマークはちゃんと隠れている。

けれども、衣服の下に隠した私の肌には、首筋以外にもいくつかのキスマークがあった。
これは、あの人の想いの痕跡。
やっと手に入れた私を二度と逃さないと柊介が刻み付けた、所有の証だった。

昨晩の記憶が甦ってきて、顔が熱くなるのを感じた。
浸らないように気を保とうとするけれども、脳に焼き付けられた記憶は鮮明だった。私を乱しに乱した男の声、しぐさ、手と筋肉の動き、その硬さ、力強さ、熱さ―――。
はぁ、と私はたまらなくなって、甘い吐息をつく。

岬でのキスの後、タクシーを拾いその場から一番近いホテルを探した。
デートスポットの近くというだけあって、すぐ見つかったのは安っぽいラブホテル。最終日の宿泊先がこんなチープな所になるなんて笑ってしまうけど、あの時の私達は、もうそんなことはどうでもよかった。
一刻も早く欲しかったのは、二人きりになれる部屋とベッドだけだったから。

濃密な夜をすごし、ほとんど眠っていない身体で朝一の新幹線で帰ってきた。
もちろん、仕事は休んだ。
当日の朝に会社に伝える休みの理由なんて、体調不良しか思いつかなかった。
私と柊介、二人して体調不良なんて胡散臭いにもほどがあったけれど、後輩の様子から見るに、なんとも思われていないみたい。私が必要以上にハラハラしていただけだった。

エレベーターの前まで来た。
上昇ボタンを押す。
すると、隣から伸びてきた手が、私のその手に重なった。