オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~

「…勝手にやってろよ。エリート同士、よろしくやりゃあいいじゃねぇか。よかったな、都。恋に仕事に、相変わらずお前の人生は充実だ。―――もう、俺なんかで間に合わせなくてもいいぞ」


基樹の力ない言葉は、別れの言葉だった。
その悲しげな声を聞いた瞬間、痛烈に思った。私は基樹をしこたま傷つけたのだと。
弁明の余地などない。
私は基樹や飯田の言う通り、卑怯者で罪深い女だ。


「都…!」


踵を返し、私はその場からかけた。他の客の好奇の目を振り払い、戸惑うように私たちの成り行きを見ていたマスターに押し付けるようにお札を渡して、店を飛び出す。


「都! 待てよ!」


向居が追ってくる。
私は足を緩めない。

向居にだけは、知られたくなかったのに。
向居にだけは、自分のこんな嫌なところ、知られたくなかったのに。

あれほど世界を支配していた太陽はほとんど海に沈み、あたりは薄墨色の暗闇に染まりつつあった。
消え行ってしまうようなぼろぼろの心に、ざばんざばんと波の音が打ちつける。
申し訳程度に立っている白熱電灯が力なく照らす道は、どこか見覚えがあった。
いつも残業帰りに通る冷えた家路に。

その空虚な光景もぼやけていく。涙が溢れ、潮風に冷える頬を熱く濡らした。

嗚咽がこぼれ、息が切れる。
悲しみと疲労に打ちひしがれ、走るのをやめて、もたつくように歩き出すと、不意に力強い手に肩をつかまれた。


「都…!」


見上げれば、整った顔に必死な表情を浮かべた向居がいた。


「離してよ…」

「いやだ」

「放っておいてよ…!」

「できない」


向居の両手が痛いくらいに私の肩をつかんだ。


「好きだから、放っておけない」


低く掠れた声とともに強引に引き寄せられ、熱いぬくもりに包まれた途端、唇にやわらかい感触を感じた。