ここぞとばかりに並べ立てられる言葉は、憎しみというねっとりとした毒を含んで私の心にまとわりついてくる。
全然、気付かなかった。
そんな前から裏切られていたなんて、そんなに長く基樹に嫌われ続けていたなんて…。

動揺を隠しきれない私に、飯田は心底愉快そうに口端を歪めた。


「憎いですか? 裏切者って思っています? …でも、私に言わせれば、本当の裏切者はあなたですよ」


ぎくり、と私は身体の芯が冷えるのを感じた。飯田は止めを刺しにかかるような目をして、笑みを浮かべる。


「あなたは、自分の中に基樹さんへの気持ちが無いことに気付いていたんですよね? だってもしあったら、とうの昔に基樹さんと私のことに勘付いていたはずだもの」

「…」

「気付いていたのに、付き合い続けていた。それはどうして? 寂しかったからですよね? 仕事だけになるのが、独りになるのが」


飯田の牙が私を刺し貫いたとしたら、それは今この瞬間だった。
女は本当に恐ろしい。私の本音を私以上にこうも早く見透かしていたなんて。

そして飯田が気付いているということは、基樹もこのことを知っているということと同じだ。

思わず私は基樹を見やった。
冷ややかな、それでいて憎しみに揺れるその瞳を見た瞬間、思わず私は視線をそらしてしまう。

この場での私の敗北が完全に決まった。