「逢坂さん、まさかここに独りで来たんですか? 相変わらずご勤勉ですね。基樹さんが嫌っている通り」


容赦なく投げつけられた言葉に、私の心がびくりと反応する。
そんな私の機微を飯田は肉食動物のような鋭さで見抜き、追い打ちをかける。


「まさか、嫌われているの気付いていなかったんですか? ごめんなさい、『料理も作らなければ彼氏を気遣うこともしない、仕事だけの最低な女』ってよく基樹さんが言っていたから、つい」


なにをいけしゃあしゃあと。
虫唾が走るくらいわざとらしく眉根を寄せて申し訳なさそうに言うけれど、半分はあんたの本音でしょう?


「よく言うわよ、白々しい。私を逆恨みして転職していったのは知っているのよ。基樹を盗ったのも、どうせ私への当てつけでしょ」


怒りをにじませて言った私の言葉に、「ちがいますよ」と飯田は勝ち誇った表情で言い切った。


「あなたより私を選んだのは基樹さんですよ? 私達、転職する前から関係があったの知っていました?」

「な…」

「すぐそばで裏切られていることにも気付かなかったなんて笑っちゃう。ちょっと仕事ができるからっていい気になっているけれど、長く付き合った彼氏から愛想つかされて浮気されている異変にも気付かないなんて、マジほんと惨めすぎ。ああやだやだ、仕事だけしか能の無い女なんて、ほんと痛すぎる」