「...寒いわ」


引き裂かれるような胸の苦しみを押さえつけるがごとく自分の身体を抱いて、私は苦笑いをうかべた。


「ごめん…私、お手洗い行きたくなっちゃった」


向居の表情が曇る。
お手洗いなんてムードぶち壊しの発言をしたからじゃないことは、解かっている。
向居は、この先の言葉を聞くのを拒否したことに気分を害したんだ。


「なにが怖い?」

「…ごめん」

「都…っ」

「ごめんね…」


向居を振り切って私は店の中に駆け込んだ。

そして―――どこへ。
逃げるったって、どこへ行くのよ、臆病者。