予測はしていた質問だったけれど、答えを用意していなかった私は返答に窮する。


「…そう言う向居はどうなのよ」

「質問に質問で返すなよ」


鋭く切り返してきた低い声が、なぶるように私を追い詰める。
唐突に昨晩のことを思い出した。
抱き締められたあの時の声。ぬくもり。
すごく熱かった、体温だけじゃない、溢れ出た想い―――。


「悪くなかったわ。向居は私が思っていたよりずっといい人ってことがよく分かったわ」

「……」

「『ごっこ』はそれなりに楽しめたわ。とてもいい仕事になった。だから私たち、明日からは仲良し同期になれそうね」


素っ気なく、でき得る限り乾いた声で言い切る私。
けれども、私のそんな虚勢はもう向居には通用しなかった。
私を抱く向居の腕の力が、そうはいかないとばかりに強くなる。


「ああ、俺も楽しかった。あっという間だったよ、この三日間は」


本当に、あっという間だった―――とひとりごちるように繰り返し、向居はゆっくりと一言一言を私に告げるように言葉を続ける。


「いやなものだよな、旅行最終日の夕方っていうのは。明日が来てほしくない、このままずっと、この楽しい時間が終わらなきゃいいのにと思うんだ。…特に、今回は」


終わりたくない。

そう、うめくように私の耳元でささやき、向居はきつく私を抱き締める。

息が詰まるほどのその強さに、私は涙腺が緩むのを感じる。

終わりたくない。
私も終わりたくないわ、向居。
貴方とこのままずっと…『ごっこ』なんかじゃなくずっと…。

でも…。