「すごくいい眺めですね。こんな素敵な場所でカクテルを飲めるなんて、夢のようです」


私がつい話しかけると、マスターは雰囲気の通りの落ち着いた、でも親し気な声色で返してくれた。


「ありがとうございます。ここの夕陽がすごく好きで、どうしてもお店を開きたかったんですよね」

「大正解ですね。私、もうすでにここからの眺めに感激しちゃいました」

「寒いですけれど、テラスは解放していますのでよかったら出てみてください。海風を感じながら見ると、なおいいですよ」


カクテルは数分のうちに運ばれてきた。
ワインレッドがほんのり差す乳白色と、目が醒めるような青。

クワイエットサンデー(平穏な日曜日)とブルーマンデー(憂鬱な月曜日)。

この旅行の締めにはぴったりの二杯かしら。

乾杯。

と掲げて偽りの恋人である私たちは、最終日の一杯に口をつけた。

赤ワインのさわやかな酸味が口中に広がる。
でも、ワインは少し苦手だった。口の中に微かに残る渋みが、悲しさを沸き起こさせる。


終わりたくない。


突如、痛烈に思った。


この旅行を―――向居との時間を終わらせたくない…。