「っていうか、俺っておまえからイケメンリーマンに見えてたんだ?」


う。


「よかったな、弱み握れたじゃないか。それで? どうするって? 俺を揺すろうって魂胆か? みーやーこー??」


弱みを握られたにしては、勝ち誇ったような顔で見下ろしてくる。
声が低く掠れているのは酔っているからじゃない、わざとね…! ムカつく! …けど、鳥肌が立って、ドキドキと胸が騒ぎ出しーーー


「俺を困らせてどうしたいつもりだ…?」


とどめと言わんばかりにさらに低くなった声に、ひくり、と思わず震えた。
さらに追い詰めるように、向居の指が強張る私の唇に触れる…。
な、なんなのよ、なんで一気に形勢逆転になっているのよ…!


「都…俺は…」


吐息するように囁いた顔が、近付いてくる…。なに、これ、お寺の時と同じ状況…どうしようーーー


「もうだめだ」


が、しかし、近付いてきた顔は視界からフレームアウトし、更なる重みが私に伸し掛かってきた。


「俺もうだめ。は…」


は!?
『は』ってなに!? 


「えええ、ちょ、待って! もう~この酔っ払いっ!」

「うるさい、このザル女」

「もう! それ以上言ったら置いてくわよ! ほら、旅館に行くから立って!」


呻きながら立ち上がる向居。ふらふらして今にも倒れそう! 
「タクシー!」と必死に手を振って今夜の宿泊先までの足を確保し、向居に肩を貸してタクシーまでの数メートルを必死で進む。

ハイスペッグ男の弱点みたり。けどその代償たるや、かなり厄介なものだった。