ひどく甘い掻痒感を感じて、じくり、と胸がうずく。なのに私は、向居の瞳に吸い込まれたまま、煽るように私の唇をなぞり続ける向居の指に、されるがままになる。

悪戯に、ゆっくりと、唇を割る指。

胸が壊れそうだ。
だってまるで。

今にもキスしそうだから…。


「わ、私…」


たまらず、あえぐように私は声を押し出した。


「わたし」


うん? と向居は吐息するように甘い声でうながした。
なぜだか泣き出しそうになりながら、私は声を絞り出した。


「わ、たし…もう、外に出るわ」

「どうして」

「だって…、だって向居といると…」


「すごく熱いから」と言い残し、立ち上がった途端―――


「…っ」


足に痛みが走り、身体が崩れる。
忘れていた靴擦れの痛みだった―――腕をつかまれる感覚を感じ、ぐいと引っ張られ自由を失う―――次の瞬間、濃紺の肩が目の前にあった。

鼻をかすめる着物の糊と、男性用の整髪料の香り。
そして、固い筋肉の感触と、熱い体温。

向居の体温。

それが、私をやさしく包んでいた。