「そうだよ、都以外に誰がいるんだよ。ここのところずっと俺と都の一騎打ち続きだったろ」

「…そうだけど…」

「だから、正直驚いたよ。都が俺に対して劣等感を持っていたなんて」

「…」

「けっこう、うれしかった」


にやと口端を上げる向居。そのまま意地の悪い顔で私の顔を覗き込んでくる。


「都って、そんなに俺のこと高評価していたんだな」

「…まぁね」


そんな腹の立つ表情もやっぱりかっこよくて、私はつい唇をすぼめてそっぽを向く。


「ならよけいに嬉しいよ。ライバルからの評価が一番きくもんな」

「それは、否定しない」


そっぽを向きながらうなづく私に、向居はくすりと笑みをもらす。


「考えてみれば、俺たちってライバルなのに恋人ごっこやって二泊も旅行して。なかなかスリリングなことやってるよな」


自分から誘っておいてなにを今さら言うのよ、この男は。


「そうね。だから油断していると、後ろから刺されちゃうかもよー」

「怖いな!」


私がふんと顎を上げてしたたかに笑うと、向居はことさら楽しげに破顔した。
その顔が柄にもなく子供っぽくて、私も思わず声を出して笑って続けた。