十年ぶりにお目見えするってことが? それとも木製のものが何百年たった現在までこうして残っているってこと?

向居にはそれも含めてこの仏様の様相から雰囲気まで、なにもかもがすごいんだろうけど、残念ながら私にはさっぱり、解からない。

ただ解かることと言えば、向居がすごく満足しているってことだけだ。

ちらっと向居を見やる。この旅行に来て何度も実感させられた整った横顔は、心なしかいっそう精悍としているように見える。
本当に好きなんだな、と思う。
そして、好きなものに素直に向き合う向居の清々しさが、私はすごくいいなと思う。たとえ仏像でも。
笑いがこみあげてきて、つい、くすりとこぼした。


「どうした?」

「ごめんごめん。なんか、やっぱり向居って変なヤツ、と思って。ギャップがありすぎ」

「それは都が勝手に俺をイメージしていただけだろ」

「そうね」


頷きながら、私は痛む足を見つめる。
向居のこと、エリート気取りの嫌なヤツ、ってずっと思っていた。


「けど、ちゃんと交流してみれば、ただの寺好きの地味男だったなんてね。誤解していたわ」

「地味はよけいだ」

「ふふ。ごめんごめん」


と言うけど、こんなハイスペッグ、中身が地味なくらいが中和剤になってちょうどいいわ。

向居は穏やかな微笑の中に懐かしむような表情を浮かべて、仏様を見つめた。