顔がにやけそうになりながらも運ぶ筆は、我ながらなかなかいい線を描いていく。
「そうそう、初めてにしては上手ですね~」なんて褒めてくれる店員さんは、対して向居には、


「あ…! もうちょっと力抜いて…そうそう、あぁあ…うんうん、いいんですよぉ…その調子…」


いくぶんかハラハラしている。
向居自身はもっとハラハラしているようで、形のいい眉の間に皺を寄せながら、らしからぬ情けない声を出す。


「やっぱり、むずかしいな…まったく綺麗な線が描けない」

「初めてならそう感じますよね。でも絵柄通りにならなくていいんですよ、ご自身のお好みになれば」


と励ます店員さん。

あの向居たる者が、店員さんにこれほど気を遣わせるなんて…!
と私は躍り出したいような気になりながら、向居の手元をのぞきこむ、が。


「うわ、なにそれ」


思わず固まった。
予想を超える下手くそっぷり…。まるで幼児の絵だといっても過言ではない


「漆が…言うことをきかないんだ」


私は吹き出した。しょうもない言い訳!


「いがーい! 向居って不器用なのね!」

「誰だって苦手なものくらいあるだろ」

「いやなんでもそつなくこなすから、苦手なものなんてないのかと」

「そうか?」