「…もう大丈夫、ありがとう」
涙も雨も収まって来た頃、もう辺りは夜が始まろうとしていた。
「それはよかった」
よく考えてみれば、私は初対面の男の前で大泣きするというとても恥ずかしい事をしてしまっているのだが……。
この際これは考えないことにしよう。
「じゃあ、もう帰るから、ありがとう」
そうやって早くこの場を立ち去ろうとした私に彼は少し慌てて。
「待って、僕はチハル」
「は?」
「僕の名前、チハルっていうんだ。
覚えてて、明日もここで待ってる。」
_チハル
その響きは初めて聞くのに、
不思議と馴染んで、私の心にスッと入ってきた。
「気が向いたら覚えとく。」
「あは、ネオちゃん酷いや、じゃあまた明日ね」
「気が向いたら行くから、多分来ないけど」
「あはは、うん。気が向いたら、ね」
どれだけ冷たい返事をしても君がとても綺麗に微笑むから、
なんか心を見透かされてる感じがして。
私は1度も振り返らず、来た道を引き返した。

