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熱が下がり1日だけ休んだ後はだるい体に鞭打って無理をして出勤した。仕事のミスや遅れを取り戻そうと集中してパソコンに向かっていた。
気が付けば定時はとっくに過ぎていて、私以外の社員はもう誰もいない。
まだきちんと回復もしていないのに残業をするなんてバカだと自覚しているけれど、今の私には仕事に没頭するしかない。少しでも時間ができると考えてしまうのだ。正広のことを。

暗い気持ちにならないように仕事に没頭した結果、ビルの警備員のおじさんが巡回に来てしまう時間になっていた。
フロアのドアから顔を覗かせた愛想のいい警備員に「帰るときは警備室に寄ります」と声をかけて、再びフロアに一人になると「はぁ……」と大きな溜め息をついた。

恋愛で仕事が手につかないなんて社会人失格だ。わかっている。けれど私の26年間の人生の内5年も付き合った正広の存在は大きかった。

デスクに置いたスマートフォンが突然静かなフロアに鳴り響き、ビクッと体を震わせた。画面には正広からの着信を知らせる表示が出ている。待ちに待った連絡に嬉しいような怖いような複雑な思いでスマートフォンを手に取った。

「もしもし……」

「美優」

数日振りに聞いた正広の声に早くも目が潤み始めた。連絡をくれて嬉しい。そしてついに現実と向き合わなければいけない時が来たと恐怖する。