「ああ、戸田さん……お疲れ様です」

武藤さんも一瞬だけ顔が曇ったのを見逃さなかった。やっぱりこの人は私を嫌っているのだ。そう感じずにはいられない。そうして彼は私を避けるように足早でフロアへ入っていった。

同じ営業部だけど武藤さんとは過去にも挨拶程度しか会話をしたことがない。営業2課の課長で営業成績のいい会社の期待のエースだ。おまけに長身のイケメンで頭の回転が速い。イベント企画を次々と成功させている、取引先にも評価の高い人だ。性格も穏やかで人付き合いもいい。それなのに私にだけは違う。それがどうしてなのかはわからないけれど。

給湯室に入ると自分の分と手を上げた4人分のマグカップを食器棚から出した。武藤さんにもコーヒーを淹れるかを聞きそびれてしまった。できれば武藤さんの分は淹れたくない。でもここで持っていかないとますます私のことを悪く思って更に冷たい態度になるかもしれない。

あの人さえいなければ会社の人間関係に文句ないのにな。

たかがコーヒーなのに武藤さんに気を遣わなければいけないと思うことが堪らなく嫌だった。
もしかしたら飲むかもしれないからと結局武藤さんの分と合わせて6個のカップを出した。インスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注いでトレーに載せるとフロアへ運んだ。

「どうぞ……」

私は武藤さんのデスクにカップを置いた。

「え? 戸田さんが淹れてくれたんですか?」

「そうですよ」

驚く武藤さんについ素っ気なく答えてしまった。

「僕にもですか?」

イスに座った武藤さんは目を見開いて横に立つ私の顔を見上げた。