私の仕事は正広の仕事と繁忙期がずれる。正広の予定があいていても私の仕事が忙しくなることもあった。
「そっか……」
「どうして?」
「いや、久しぶりにどこかでゆっくり外食しようと思ったんだけど」
「いいねそれ!」
二人で外食なんて久しぶりで浮かれてしまう。自然と声が弾む。
「でも今夜は難しいな。来週……ううん、落ち着くのは来月になっちゃうかも」
生憎今夜は仕事の予定がある。けれど乗り気になってくれた正広の気持ちを繋ぎ止めたくて「ごめんね」と付け加えた。
「わかった」
正広は食器をキッチンに置くと出勤する準備を始めた。私も片付けをして正広の家に置きっぱなしの服から今日着ていくものを選び化粧をした。
◇◇◇◇◇
仕事が一段落した午後、私のデスクの上には取りかかっているイベントの資料が広げられている。それにうんざりしながらコーヒーが飲みたくなって立ち上がった。
「コーヒー淹れますけど飲みたい方いますか?」
フロア全体に通るように声を大きくして聞いた。今フロアにいるのは営業部の数人と事務の子と合わせて20人くらいだ。その中で手を上げてくれたのは4人だった。
「戸田さんありがとー」
「美優さんすみません」
「いいえー」
お礼を言ってくれる人に返事をしながらフロアから出て給湯室のドアに手をかけたとき、通路の奥のエレベーターから営業の武藤さんが出てきた。
「あ……おつ、かれさま……です」
苦手な武藤さんの出現に一瞬言葉を失ったけれど、挨拶をしなければと精一杯言葉を振り絞った。



