「すみません、お先にもう盛り上がっちゃってます……」
何か話さなくてはと「こんな日に仕事でお疲れ様です」と頭に浮かんだ言葉を適当に発した。私の作り笑顔に武藤さんは視線を逸らし田中さんの注いだビールを飲んだ。
ほらね、武藤さんの近くに来たことは間違いだ。
「どうぞ……」
私は震える手で精いっぱい気を遣って武藤さんに向かって瓶ビールを掲げた。
「ああ、すみません」
私の前に武藤さんは空のグラスを差し出したからグラスの縁ギリギリまでビールを注いだ。武藤さんも落ち着かないのかグラスの中身を一気に飲み干した。そんな武藤さんに私は「どうぞ」と再び瓶ビールを掲げた。
「ありがとうございます……」
武藤さんは複雑そうな顔でビールを口に含んだ。
「私だけ先に来ちゃってすみませんでした」
田中さんが申し訳なさそうにすると武藤さんはほんのり顔を赤くして「大丈夫ですよ」と呟いた。
「専務には悪いですが僕はガラス細工作りは苦手なので……」
「武藤さんやったことあるんですか?」
「ありませんが、何かを作るのが苦手で……学生の時も美術の授業は嫌でしたね……」
「武藤さんにも苦手なものがあるんですね」
「ありますよ。手に負えないこともたくさんあります」
武藤さんの手に負えないことの一つが私だったりして。
複雑な気持ちになりながら空になった武藤さんのグラスにビールを注ぐ。
「そうそう、来月から引き継ぎよろしくお願いします」
田中さんが武藤さんと私に頭を下げた。いつの間にか田中さんの顔は赤くなっていた。既に相当酔っているようだ。



