「離れたから気づいたことだってあったのよ」
愛美さんは直矢さんを悲しげな表情で見つめている。けれど直矢さんは愛美さんの顔を見ないで足元を見ていた。
「ねえ直矢、こんなときに言うことじゃないんだけど、今日会ったのも意味があると思うの」
「堀井さんとなら良い仕事ができそうな気はするね」
「もう愛美って呼んでくれないの?」
「今は仕事中だよ」
私はじわじわと不安が湧き上がる。愛美さんが直矢さんに対してどういう思いを抱いているのかはこの短時間でもわかってしまうのに、直矢さんは気づかないふりをしている。まるで愛美さんを嫌悪しているようだ。
二人が過去にどんな関係だったのかが理解できてしまい、私はその場から動けなくなった。じっと見つめることしかできないまま。
「私、後悔してる……」
「何を今更」
直矢さんは鼻で笑った。こんな冷たい態度の直矢さんを見るのは久しぶりだ。まるで私を避けていたときのようだ。いや、それ以上に愛美さんに敵意を見せているように思える。
「武藤さん!」
これ以上直矢さんを見ていられなくて私は思わず大きな声で直矢さんを呼んだ。
「どうしました?」
直矢さんは私を見た。その顔はいつもの穏やかな表情だった。
「あの、写真撮り終わりました……」
「そうですか。じゃあ会社に戻りましょう」
直矢さんは再び愛美さんに向き合った。
「それでは来週から飾りつけの立ち会いをよろしくお願い致します」
「よろしくお願い致します……」
「行きましょう戸田さん」



