「それではまた会社で」
車から降りた私に手を振ると発進させて道路を曲がっていった。車はもう行ってしまったのに私は道の先をずっと見つめていた。
もういつでも遠慮なく会えるのに、寂しさで胸が締め付けられたように苦しくて、直矢さんの気持ちが嬉しくて愛しかった。
◇◇◇◇◇
「では僕は打ち合わせがあるので戸田さんはこの店舗沿いの写真を撮ってください。あとで企画書に貼りつけますから」
「わかりました」
私はデジカメを構えて直矢さんから離れて街の写真を撮り始めた。
毎年オフィス街の中にある企業や有名店舗の集まる銀翔街通りで行われる七夕祭りのプロデュースが今年は直矢さんの担当になった。営業部にとって大きなプロジェクトを任されるということは、直矢さんが今後も出世を約束されているようなものだ。部長が担当した去年の案を元に今年はより豪華な飾りつけにしようと直矢さんは考えているようだ。
私は街路樹の位置と歩道の幅が分かりやすいように写真を撮り、直矢さんは銀翔街通りで一番大きな店舗の担当者と打ち合わせをしている。
「武藤さん、通りの端からの写真は一通り撮りました」
「では今から連合会の広報の方がいらっしゃるそうなので戸田さんも一緒に同席してください」
「はい」
「ああ、いらっしゃいました」
店舗担当者の声で振り返ると一人の女性が私たちの元に歩いてくる。すらりとしたパンツスーツの女性の顔がはっきり見える位置まで来たとき、横に立つ直矢さんが息を呑んだのがわかった。



