「え、でも……」
それ以上に恥ずかしいことを求めたのに、直矢さんはまだ言わせる気なのだろうか。
「それとも、美優はもう満足してしまいましたか? たった一晩僕といればそれで終わらせてもいいと?」
直矢さんの表情が暗くなるものだから私は焦った。
「そんなことないです! したいです!」
そう言ってはっとした。直矢さんがまたいたずらが成功したというような顔で笑ったから。
「美優、言って」
「直矢さん……キス……してください…」
「よく言えました」
直矢さんは運転席から助手席に身を乗り出し、唇が私の唇に優しく触れた。角度を変えて何度も触れ合う唇の感触に思わず吐息がもれた。そうして直矢さんの唇が名残惜しそうに離れていく。
「今日はこのくらいにしておきましょう」
放心状態の私の頬に直矢さんは手を当てた。
「あまり寝かせてあげられませんでしたし、今回はこれで我慢します」
フロントガラスから入り込む外の薄い光に照らされた直矢さんは色っぽい顔をして私を見つめる。
「これからもキス以上のことをたくさん求めてほしいですね」
私は顔が赤くなる。
「直矢さんはこんなキャラでしたっけ?」
もっと控えめで温厚な人だったはずなのに、いつも以上に大胆な直矢さんに戸惑ってしまう。
「好きな人にはこうなんですよ。もっと強引なときもあるし、たくさん甘やかしますよ」
そう言った笑顔が今までの直矢さん以上に色っぽさを纏っていた。この人に甘やかされたら自分が子供のようにワガママになってしまうんじゃないかと怖くなるほどに。



