「――うん。ボールも片したし、窓も閉まってる。忘れ物はーと……」


 練習も終わり、私は体育館内を最終点検中。

 キャプテン、体育館のカギを取りに行ったけど、まだ戻ってこない……遅いなぁ。

 そういえば、最近チラッと耳にする、キャプテンと私の噂。

 ぷっ。あんなの、ウソなのにねー。

 それにキャプテンには他校に彼女がいる。

 キャプテンからその事実を聞いた時、『そう弁解すればいいじゃないですか』と言ったんだけど、他の部員に示しがつかないからって内緒にしてるみたい。

 ま、根も葉もない噂は、放っておけばそのうち消えるでしょう。

 それに私だって、中村君が……


 え? 『中村君が』って……何?


 何言ってんの、私ってば。

 私は中村君のこと、どう想ってるって言おうとしたの?



「マネージャー!」


 っ、ビックリした。後ろから声が。

 キャプテン、やっときた。


「もう、キャプテーン! 遅いですよー……えっ!?」


 わざと明るく振り返ったら、キャプテンじゃなかった。

 戻ってきたのは──私の気になる人。


「中村君っ……」


 息を切らしてる。走ってきたの?

 私の緊張が、一気に高まった。


「急にすみませんっ……はぁっ、はぁっ……」

「え……どう、したの? あ、わ、忘れ物……かな?」


 どうしよ。まさか、中村君が現れるなんて思わなかったよ。

 さっきまで中村君のことを考えちゃってたし……私、どんな顔をすればいいの?


「えーっと……何を、忘れたの?」


 この空気をごまかしたくなり、辺りをキョロキョロして忘れ物を探るフリをした。

 どうしよ、どうしよ、どうし


「きゃっ……」


 う……そっ……。

 後ろから抱きしめられた。

 中村君の体温が、心音が、全身に伝わってくる。

 いきなりのことで、か、体が動けないっ。


「あのっ……」

「ちょ、な、何?」

「キャプテンとのウワサは……ホントですか?」

「えっ……」


 噂のこと? 中村君、気にして?

 うわ、ますます緊張してきたっ。

 違うとか言いたいのに……うまく口が動かない。

 私は、黙って首を横に振った。


「なら……俺のこと……どう想ってますか?」

「っ……」

「マネージャーの気持ち……今、聞かせてもらえませんか?」


 私の……気持ち。

 正直……中村君への自分の気持ちが、まだよくわからない。

 わからないけど、私……

 後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれて、こんなにもドキドキしてる。

 ドキドキが……止まらない。