平井さんの自宅付近に出向けば、平井さんも道行く人に声をかけていた。
ビラのようなものを渡し「見かけたらご連絡ください」とお願いしているようだった。
その平井さんを見て、踵を返しビルの間に消えた影があった。
平井さんはビラ配りに一生懸命で気づく様子もない。
犬飼達も平井さんに見つからないようにビルの間の細い路地裏に入った。
ビルとビルとの間のそこはゴミや資材が乱雑に置かれており、お世辞にも綺麗な場所ではない。
「大丈夫……か………心配無用だな。」
スーツの犬飼も歩きにくい事この上なかったが、後ろをついてきているであろう美雨に気を配ったのだ。
ただ、そこは見た目通りの野生児。
器用にゴミや資材を避け、どちらかと言えば犬飼よりも足取りが軽いくらいだ。
抜けた先は小さな公園がある場所だった。
そこにいた人物。
平井さんを見て去って行ったその人に声をかける。
「ちょっといいかな?
聞きたいことがあるんだ。」
「な、なんだよ。にいちゃん誰だよ。」
防犯ブザーに手をかけながら返事をしたのは、ランドセルを背負ったままの小学生の男の子だった。
「この辺で猫がいなくなったらしくてね。
その捜査をしているんだ。」
警察手帳を見せて警察官だと示すと男の子は胡散臭そうに眺めた。
「本当に?警察?
だって子ども連れてる。」
子どもに子どもと言われるとはな…。
美雨にうんざりした視線を向ければ美雨もポケットから警察手帳を出した。
あんな薄手のワンピースのどこにしまっていたんだ…。
そんなどうでもいいことに驚く犬飼と、子どもからの羨望の眼差しが交錯する。
「マジで?ねえちゃんも警察?
チビなのにスゲーな。」
俺のことは胡散臭そうに見てたくせに、こいつの方が胡散臭いだろうが。
不満たっぷりな犬飼の横で褒められて嬉しそうにする美雨に男の子が急に重々しく口を開いた。
「あんたらはにいちゃんにねえちゃんだから大丈夫だよな?
……ここ最近、この辺で猫を消すおばさんがいるらしいんだ。」
消す…。連れ去るということだろうか。
怪奇現象のように語る男の子。
一見ふざけてるように見える。
しかし子どもの話でも侮ってはいけない。
案外子どもとは大人の話をよく聞いて理解しているものだ。
それに観察眼も大人よりよっぽど優れている。
「それは恐ろしいな。
そんなこと起きてたらニュースにでもなりそうだ。」
「でも猫は外を歩くだろ?
散歩に行った猫が帰ってこなくたって迷子か家出かなってもんさ。」
「でも消えたって…。」
「だからそれも噂。
にいちゃん頭固いなー。」
さっきの警戒心はどこへやら、男の子は短い指をチッチッチと左右に揺らした。
背丈から3、4年生だろうか。
相手に慣れてしまえば生意気さが鼻につく年頃だ。
犬飼は子どもに馬鹿にされ、若干の腹立たしさを感じるが、こちらは大人なのだと冷静さを失わないように話を進める。
「…噂がどうであれ、 猫が飼い主の前から姿を消すのは死期が近いからって言うしな。」
「しき…?」
「寿命がもう終わる時期のことさ。
それを猫は分かるんだとよ。」
何かを考えている様子の男の子は黙ってしまって、これ以上は何も収穫がなさそうだと話を切り上げることにした。
また別の日に話を聞きに来れば、今考えている何かをその時に話してくれるかもしれない。
「どっちにしてもランドセルを背負ったままはダメだろ。
遊びに行くなら一旦、家に帰ってからにしろよ。」
大人らしい注意をすると男の子は肩をすくめる。
「本当に頭の固いにいちゃんだね。
警察ってこんなに話が通じないんだね。
ねえちゃんも大変だ。」
大変なのは俺の方だ!と言いたいのを飲み込んだ。
これ以上、ガキどもに構っている暇はない。
猫を消すおばさんとやらが何者かは分からないが、探す価値はありそうだ。
ビラのようなものを渡し「見かけたらご連絡ください」とお願いしているようだった。
その平井さんを見て、踵を返しビルの間に消えた影があった。
平井さんはビラ配りに一生懸命で気づく様子もない。
犬飼達も平井さんに見つからないようにビルの間の細い路地裏に入った。
ビルとビルとの間のそこはゴミや資材が乱雑に置かれており、お世辞にも綺麗な場所ではない。
「大丈夫……か………心配無用だな。」
スーツの犬飼も歩きにくい事この上なかったが、後ろをついてきているであろう美雨に気を配ったのだ。
ただ、そこは見た目通りの野生児。
器用にゴミや資材を避け、どちらかと言えば犬飼よりも足取りが軽いくらいだ。
抜けた先は小さな公園がある場所だった。
そこにいた人物。
平井さんを見て去って行ったその人に声をかける。
「ちょっといいかな?
聞きたいことがあるんだ。」
「な、なんだよ。にいちゃん誰だよ。」
防犯ブザーに手をかけながら返事をしたのは、ランドセルを背負ったままの小学生の男の子だった。
「この辺で猫がいなくなったらしくてね。
その捜査をしているんだ。」
警察手帳を見せて警察官だと示すと男の子は胡散臭そうに眺めた。
「本当に?警察?
だって子ども連れてる。」
子どもに子どもと言われるとはな…。
美雨にうんざりした視線を向ければ美雨もポケットから警察手帳を出した。
あんな薄手のワンピースのどこにしまっていたんだ…。
そんなどうでもいいことに驚く犬飼と、子どもからの羨望の眼差しが交錯する。
「マジで?ねえちゃんも警察?
チビなのにスゲーな。」
俺のことは胡散臭そうに見てたくせに、こいつの方が胡散臭いだろうが。
不満たっぷりな犬飼の横で褒められて嬉しそうにする美雨に男の子が急に重々しく口を開いた。
「あんたらはにいちゃんにねえちゃんだから大丈夫だよな?
……ここ最近、この辺で猫を消すおばさんがいるらしいんだ。」
消す…。連れ去るということだろうか。
怪奇現象のように語る男の子。
一見ふざけてるように見える。
しかし子どもの話でも侮ってはいけない。
案外子どもとは大人の話をよく聞いて理解しているものだ。
それに観察眼も大人よりよっぽど優れている。
「それは恐ろしいな。
そんなこと起きてたらニュースにでもなりそうだ。」
「でも猫は外を歩くだろ?
散歩に行った猫が帰ってこなくたって迷子か家出かなってもんさ。」
「でも消えたって…。」
「だからそれも噂。
にいちゃん頭固いなー。」
さっきの警戒心はどこへやら、男の子は短い指をチッチッチと左右に揺らした。
背丈から3、4年生だろうか。
相手に慣れてしまえば生意気さが鼻につく年頃だ。
犬飼は子どもに馬鹿にされ、若干の腹立たしさを感じるが、こちらは大人なのだと冷静さを失わないように話を進める。
「…噂がどうであれ、 猫が飼い主の前から姿を消すのは死期が近いからって言うしな。」
「しき…?」
「寿命がもう終わる時期のことさ。
それを猫は分かるんだとよ。」
何かを考えている様子の男の子は黙ってしまって、これ以上は何も収穫がなさそうだと話を切り上げることにした。
また別の日に話を聞きに来れば、今考えている何かをその時に話してくれるかもしれない。
「どっちにしてもランドセルを背負ったままはダメだろ。
遊びに行くなら一旦、家に帰ってからにしろよ。」
大人らしい注意をすると男の子は肩をすくめる。
「本当に頭の固いにいちゃんだね。
警察ってこんなに話が通じないんだね。
ねえちゃんも大変だ。」
大変なのは俺の方だ!と言いたいのを飲み込んだ。
これ以上、ガキどもに構っている暇はない。
猫を消すおばさんとやらが何者かは分からないが、探す価値はありそうだ。