別にあいつのことが気になってるわけじゃねぇ。
 誰に言い訳するわけでもなく心の中でつぶやく。
 だいたい出て行ってくれて清々してるんだ。

 そんなことを考えながら歩いていると、周りのヒソヒソ声が耳に届いた。

「あんなにたくさんの猫が人についていくなんて…。」

「ほら。あの童話みたいだな。」

「知ってる。
 最後は子どもを連れて行っちゃうやつでしょ?」

 それ確かヘンメルンの笛。
 ついてくるのは猫じゃなくてネズミだし。
 そもそも俺、笛吹いてないし。

 心の中で一人ツッコミしていても変な光景は注目されるだけ。

 気づけば、犬飼の後ろに数えきれないほどの猫がついてきていたのだ。

 どこからこんなに。
 そう思うのに、この猫たちがどうしてついて来ているのか犬飼には理由が明白だった。

「分かったから。目立つから。」

 ボソッと発しただけで猫達は散り散りに去っていった。

 おかげで周りの人達も「なんだったんだろうね」と不思議な顔をしながらも散り散りに去っていった。

 全てが去った後に残された1人と1匹。
 1匹だけ去って行かなかった猫が「みゃ〜」と一声鳴くと歩き出した。

 まるでついてこいよ。
 と、言っているようで、仕方なくついていくことにした。

 どこをどう行けばこんなところがあるんだ。というような道を行き、たどり着いたところは小さな神社の社。

 人っ子ひとり居なさそうなその場所に美雨が寝ていた。
 ただの木の床の上に薄いワンピースのみの美雨は疲れ切って寝ているようだ。

 何かを抱いて寝ている美雨をよくよく見れば、買ってやった地下足袋を胸に抱いていた。

 そんなに気に入ったのか。
 案外可愛いとこあるんだな。

 「しかしきったねぇな。薄汚れて……。」

 苦笑して文句を言いつつも手を伸ばす。
 何度抱き上げても軽く、そして今日の美雨は冷え切っていた。

「やっぱり寒いんじゃねーかよ。」

 そうつぶやき美雨を抱る。

 猫っていうか野良犬だな。
 って…犬は俺か。

 寂しそうにハハハッと乾いた笑い声を上げ、美雨を抱き締める。

 そして道なき道を来た通りに帰っていった。