朝になっても美雨は帰ってこなかった。

 あの程度のことを聞かれたくらいで大人げなかったな。
 そう反省しつつも、美雨の居場所も、はたまた連絡手段も知らなかった。
 美雨のことを何一つ知らなかった。

 署に行っても美雨は来ておらず、じいさんには「美雨ちゃんは?」と聞かれる始末。

「出てった。」

 言いにくそうに言えば相変わらずの呑気なたぬきじじいは「喧嘩したのか。ほどほどにな。」と、言うだけだった。

 それだけかよ。
 そう思いつつも、あいつだって大人なんだ。
 ちょっと出てったくらいで、どうにかなるってわけじゃ…。

 そう思って過度に心配するのはよそうと心に決めた。


 仕事を終え、アパートに帰っても美雨は居るわけもなく。

 何日か前のいつも通りの日常じゃねぇか。
 静かで、服をその辺に脱いだって文句を言われない。

 ベッドで寝ようと視線を向ければ、小さく畳まれた布団にズキッと胸が痛くなった。

 人肌恋しいどころの騒ぎじゃないとでも言いたいのか……。
 無理矢理に目をつぶると、美雨の顔が頭をチラチラとかすめる。

「っだぁー!」

 ベッドから飛び起きると、頭をぐしゃぐしゃとかいてからアパートを後にした。