「ワンちゃん、彼女作らないの?」

「ブッ。」

 突然の質問に飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

「汚い。」

 誰のせいだ!誰の!
 ムスッとしたまま片付けていると、美雨が驚きの言葉を続けた。

「だって最近は女の人に襲われそうになってるくらいで……。」

「それダサいから。言わなくていい。」

 ったく。なんで知ってんだよ。
 猫にでも聞いたのか。
 だいたい、そんなこと聞いて何になるっていうんだ。

 うんざりした顔をしていると、続けて話した美雨の言葉に表情を固くさせた。

「昔の彼女を忘れられないから?」

 な、んだって?

 片付けていたコップを乱暴にテーブルに置くと大きな音に驚いた美雨と目があった。
 何故こんなに苛立っているのか、よく分からないまま声を荒げた。

 忘れていたかった傷を抉られたせいかもしれない。
 怒りが爆発する。

「裸足でそこらを歩く奴は人の心の中も土足かよ!!」

 目を丸くした美雨の悲しげな表情が胸を痛くさせるが、そんなことを気にしてやれるほど、平静を保てなかった。

「笑いたきゃ。笑えよ。
 他の男に寝取られたんだよ。」

 やけくそ気味に言い放つと、今まで心地よかったはずの美雨のぬくもりにイライラした。
 そして近寄ってくる美雨を払いのけた。

 愕然とした表情を浮かべた美雨にその腕を取られ、噛み付かれた。
 久しぶりに聞いた唸り声。

 あぁ。やっぱり俺には何も必要ねぇ。

 噛まれた腕が痛いのも、もうどうでもよかった。