犬飼たちには他の仕事が入って来ることはなかったため、一日中書類の整理に追われた。
 ただ今までと違い、美雨の手伝いが的確で山積みになっていた書類のほとんどを片付けることが出来た。

 久しぶりに見た角まで見える机を感慨深く眺める。

 こいつ、変わった能力があっても普通なんじゃないのか?
 そう訝しげに観察してみても、呑気に欠伸をする姿はどう見ても大人の普通の女性とは思えなかった。



 
 当たり前になってしまった2人で帰る道のり。

 日に日に秋が深まっていくのを感じる。

 そんな中、薄いワンピース一枚の美雨が寒々しく、犬飼は上着をかけてやった。

「ん?ワンちゃん寒い?」

 ったく。どういう質問だよ。
 やっぱりこいつが普通かもなんて思う方が馬鹿らしいよな。

「寒いのはお前だろ。」

 かけてやった上着に包まって、嬉しそうな美雨が腕にまとわりついてくる。

「へへっ。やっぱりワンちゃんいい人。」

 聞き慣れた言葉とザワつかなくなった胸に美雨のぬくもりが心地良かった。
 それでも口からは素っ気ない言葉を転がり落とす。

「んだよ。歩きずれーだろ。俺は寒くない。」

 言ったところで離れていかない美雨に犬飼も、それでいいと思っていた。