「木村さんがいい人で、向島さんがひどい人だからか?」
結果、そうだった。
しかし最初から分かっていたというのは……。
「猫が………教えてくれたから。」
やはり動物と話せるのは本当だったのか。
驚きよりも腑に落ちる点がいくつもあって納得してしまう自分がいた。
「そうか………。
知ってたんなら、辛かったな。」
胸にしがみついてきた美雨が頭を左右に振る。
よく見る光景だったが、今回はうんざりするどころか健気に感じてしまう。
「ワンちゃんがいい人で良かった。
ワンちゃんが全部ちゃんとしてくれたから。
だからワンちゃんの方が偉いし辛いよ。」
美雨の言葉に思わずぎゅっと抱き締める。
なんなんだよ。俺は…俺は……。
「偉くなんかない。」
かろうじて絞り出した本心。
だいたいこんなんじゃ刑事失格だ。
まぁ失格だから『失せ物』にいるんだが。
「ワンちゃんは………。
ううん。なんでもない。」
美雨は「ワンちゃんは動物と話せるなんて気持ち悪いって思わない?」という言葉を飲み込んだ。
ワンちゃんなら大丈夫。そう思ったから。
それに………聞くのが怖かった。
「シャンプー買わなきゃな。
男物のシャンプーの香りなんてさせられねーわ。」
犬飼は苦笑しながら美雨の頭を優しく撫でる。
まさか添い寝することで、こんなに自分の方が癒されるとは思ってもみなかった。
「そしたらまた一緒に寝れる?」
いつも想像の上を行く返事にハハハッと乾いた声を上げる。
「お前が凹んだ時っつたろ。」
こんなのは今日だけ。
今日だけだ。
だから「俺も人肌が恋しいんだ」とは言わないでおいた。