鑑識課に出向くと麗華に心配そうな顔で出迎えられた。

「失せ物……大丈夫?」

「さぁ。成るようにしか成らないさ。」

「ワンちゃん……。」

 何か言いたそうな麗華は言葉を飲み込むように黙ってしまった。

 今までの犬飼の境遇。
 失せ物に配属されるまでの様々な仕打ち。
 それを思い起こせば「頑張れ」など安易にかれられる言葉ではなかった。

 そんな麗華に美雨がトトトッと近づいてきた。

「どうしたの?美雨ちゃん。
 今日も小さくて可愛いわ……ね。
 あら。」

 美雨は麗華の前に行くと髪をかき分けて首すじを露わにさせた。
 もちろんそこには艶かしい………。

「っだぁー!!!!!
 人に見せるもんじゃねぇって言ったろ!!!!!」

 乱暴に腕を引っ張って麗華から離したところで何もかもが遅かった。

しかも美雨は
「麗華さんは大丈夫。」なんて言いやがる。

 そんな2人のやり取りを見ている麗華は微笑んで、というか意味深に笑っている。

「ワンちゃんも、そっか。
 大切にしなきゃダメよ。」

 勘違いしている美雨が
「うん。大切にする。」
 と、首元を愛おしそうに触るのを、犬飼は苦々しく眺め、麗華は今度こそ微笑んだ。

「そんなんじゃねーよ。
 ただ「つけて欲しい」っつーからつけただけだ。
 それ以上もそれ以下もない。」

 そう言ったって信じろという方もどうかしている。
 だいたいアレはそもそもマーキングというより、普通はそういうことをしている最中に……。

 まずい思考になりそうになって急いで頭から排除しようと頭に手をやりつつ、頭を振った。

 麗華はクスクス笑う。

「ワンちゃんなら大丈夫ね。
 きっと大切にしてくれるわ。」

 後半は美雨に向けた言葉のようだったが、納得できずにぼやく。

「そんなんじゃねーつってんだろ。
 だいたい買い被り過ぎだ。」

 どんな言葉を重ねてもクスクス笑う麗華に何度目かになる辟易した顔をした。