食べ終わった美雨が改まって犬飼に向き合った。

「あの……ここに置いて欲しい…です。」

 そう来たか…。

「ダメに決まってるだろ。」

「なんで?ちゃんと約束、守れる。」

 そういう問題じゃないだろ。
 こいつにどう説明すれば…。

 考えたところで分かりっこないという結論に達する。

 そこでとりあえず分かりやすい理由を並べてみた。

「俺の家だぞ。
 なのにずっとソファで寝るのは嫌だ。」

「ベッドで寝て。」

 だから!
 それが無理だからソファで寝てるんだろうが!

 そこを説明するのが果てしなく面倒なことに思えてしまう。

 どうせ、お前はどこで寝るんだと言えば一緒に寝たらいいとか言うに決まってる。

 変なことを言われるよりは何も言わない方がマシだと黙っておくことにした。


 無言の時間がしばらく過ぎると、美雨がボソッとつぶやいた。

「ちゃんと床に寝れるよ。
 だからここに置いて。」

 今にも泣き出しそうな掠れ声はいつもの美雨のイメージとはかけ離れたものだった。

 はぁ。
 思わずため息をつくとクシャクシャと頭をかいてかかえる。
 何を言われても俺の中で答えは決まってる。

「………出かけるぞ。」

「え?」

「床に寝かせて風邪でも引かれた方が面倒くせーんだよ。」

「え?」

「布団を買いに行くっつんてんだよ。」

「………うん!」

 こいつがどこでどうなろうと知ったこっちゃない。
 しかしここから追い出せば、よそ様に迷惑をかけるかもしれないという正義感からだ。
 それ以外の何ものでもない。

 外に出れば昨日よりも肌寒い空気に、俺が人肌恋しいからじゃねぇ。と誰に聞かれてるわけでもないのに否定しておいた。