公園前に行くと既に来ていた男の子が段ボールを持って待っていた。

「なんだよ。警察が時間に遅れるってどういうことだよ。」

 なんで小学生のガキに文句言われなきゃいけねーんだ。
 心の中でまたもやうんざりしていると、隣から声がした。

「ワンちゃん聞き込みしてた。」

 男の子には心を開いているらしい美雨がそう告げれば、男の子が笑い出す。

「ワンちゃんって、もしかしてにいちゃんのことか?
 犬にしてはやる気なさ過ぎの顔だろ。」

 言い返す気にもなれず、笑っている男の子とニコニコ嬉しそうな美雨の後をうんざりしながら続いた。

 男の子が持って来た段ボールにミケとその子供たちを入れる。
 ミィミィと不安そうに鳴く赤ちゃん猫に男の子は優しく声をかけた。

「大丈夫だぞ。このにいちゃんこう見えて優しいんだ。」

 こう見えては余分だろ。

 そう思いつつも男の子が仔猫に懸命に話しかける姿に何も言わないでおいた。

 平井さんには午後から伺う事と、ミケが見つかった事は伝え、家に伺うことは了承を得ている。
 ただ、赤ちゃん猫の事は会ってからだ。
 いい返事をくれるだろうか…。


 緊張の面持ちでインターホンに手を伸ばせば、男の子の喉がゴクリと鳴ったのが聞こえた。

 何度かの呼び出し音の後に声がする。

「はい。前の警察の方ね。
 お待ちしてましたよ。」

 弾んだ声を出す平井さんにドキドキが止まらない。

 玄関先に出てきた平井さんが開口一番
「あら可愛い!」
 と言ったのは何よりの救いだった。

「そう。
 それで、あなたが餌をあげてくれていたのね。
 ありがとう。」

 勧められ家にあげてもらい、リビングで今までの経緯を説明した。

 男の子は平井さんにお礼を言われ、気恥ずかしそうに頬をかいている。

「ミケに赤ちゃんがいるなんて全く気づかなかったわ。出産を控えて家出したのね。」

 ミケが見つかってホッとした顔の平井さんが僅かに寂しそうな顔に変わる。

「ただうちも狭くて…。
 それに夫に先立たれて私1人なのよ。
 元気な赤ちゃん猫を3匹も新しく飼うのは不安だわ。」

 段ボールにいるのはミケと赤ちゃん猫3匹。
 ミケと同じ三毛猫柄で、それぞれ柄の出方が違うため表情が違うように見えて余計に可愛らしく感じる。

 やっぱりいきなり3匹も増えるのは大変だよな。
 そう思っていると男の子が力強く言葉を発した。

「俺、手伝いに来ます!
 うちはアパートだから飼えないけど、平井さんがいいって言うなら………。」

 最後は尻すぼみになりながら俯いていく。
 そんな男の子に平井さんは驚いた顔を緩めて優しく話しかける。

「お母さんはなんて?」

「平井さんのことは知ってるって。
 でも迷惑をかけちゃダメだって。」

 俯いていた男の子がズボンをギュッと握り締めた。

「俺、迷惑なんてかけないよ。
 ちゃんと猫の世話するからお願いだよ。」

 今にも泣き出しそうな男の子。
 よく頑張ったなって褒めてやりたいが、熱意だけではどうにもならないことだってある。