男の子との約束の時間まで遊んでいるわけにはいかない。別の仕事だ。

 やっと現場に入ることを許された、あの血塗られた殺害現場。
 そこに向かうことにした。

 不可解さが残るものの現段階で捜査一課では人為的な部分は一切見つけられなかったようだった。

 ただ、猫の血だったあの大量の血。

 被害者のものでないとは思っていたが、被害者以外に何も周りには無かった。
 つまり猫の死体はその場に一体も無かったのだ。

 ただあったのは、大量の血と…。

「猫の足跡はそこらじゅうにあるな。」

 現場を見に来た犬飼は美雨と一緒に血の跡が残る庭を調べていた。
 今もこの場に遺体が横たわっているわけもなく、遺体があったところには白いテープで縁取られている。
 実際にどのように倒れていたのかまでは分からず、渡された写真と見比べる。

「遺体は向島絹枝。53歳。旦那は先に亡くなっていて、この家に一人暮らし。ちなみに猫は飼っていなかったそうだ。」

 資料を読み上げても何の興味も無さそうな美雨に、やっぱりこんな奴の考えてることなんて分からねー。とうんざりした視線を送る。
 美雨は放っておいて見たいところを見ることに徹した。

 ここの家は丘の上に建っていた。
 見晴らしはよく、ここの庭からの眺めは最高だ。

 しかし、ぽつんと一軒だけ建つだけでお隣と呼べる家はかなり歩いたところにしかなかった。
 そのため悲鳴を聞いたなどの情報が皆無だった。

 家の中は特に荒らされた様子はない。
 物盗りではないように思える。

 死因は身体中の引っ掻き傷ではなく、頭を強く打ったことによる脳挫傷と脳出血だった。

 しばらくすると現場で確認できることがなくなったため、署に戻ることにした。