今日も男の子がいた辺りに出向く。

 朝早いのは、美雨とアパートに2人っきりで居たくなかったのも多分にあった。
 アパートでは普通に話していた美雨も一歩外に出れば、また無言の美雨に逆戻りだ。

 後で確認した首すじはほんのり赤くなっているだけで、ホッとしたのは言うまでもない。
 それでもスーツにネクタイをいつも以上にきっちりと締めた。

 肌にひんやりとした空気が触れ、頭をすっきりとさせる。
 木々は秋の装いを見せ、ハラハラと落ち葉が舞う。
 このだんだんと冬に近づいていく心地よい季節が犬飼は好きだった。

 人恋しくさせる季節。
 振り回されている感は否めないが、この季節だからこそ美雨を追いかえさずに泊まらせたのだろうと自分の不可解な行動が腑に落ちた。

 そしてあの寂しげな涙の跡が残る寝顔。
 朝の騒動が無ければもう少し優しく接してやれただろうが…。
 恨めしげに犬飼の前を歩く美雨に視線を移す。
 まぁあんな暴挙に出れるほどに元気なのだと思うことにした。



 朝早い時間だというのに、昨日の男の子がやってきて、あからさまにギクリとした顔をした。
 美雨が静止するように上着の裾をつかむため、犬飼もその場から動くことはしなかった。

 男の子は2人を気にしつつも、路地裏に消えた。

 しばらくしてから、また2人の前に現れ、近づいてきた。
 昨日の勢いはどこへやら、もじもじしている男の子に犬飼から口を開いた。

「小学校は?」

「今から。」

 わざわざ小学校に行く前にもここに来るほど可愛がっていたのか。
 確かにそれを勝手にどうにかするのは、こいつに可哀想かもな。

 そこまで考えて行動しているのか…。
 まだよく分からない美雨の頭を感慨深く見下ろす。

「ついてこないで待っててくれるんだな。
もう連れていかれたかなと思ってドキドキしてた。」

「それはこいつが…。」

 俺じゃないこの野生児が…と言う前に男の子が得意げな顔をして言葉を続けた。

「特別に見せてやるよ。赤ちゃん猫。」

「赤ちゃん…?」

 先を歩いて行ってしまう男の子に慌ててついていく。
 チラッと見えた美雨の顔がとても嬉しそうで、あぁこいつ、いつもこういう顔をしてたら可愛いかもな。そんな考えが頭を過ぎった。