「ん…。」

 朝、なんだかくすぐったくて眠い目をあけると驚きの光景が瞳に映った。

 誰かが…というか1人しかいないのだが、寝ている犬飼の上に乗っている。

 犬飼からはすぐ近くの頭がぼやけてしか見えず「チュゥ」という音が聞こえ、首元がくすぐったい。

 チュゥ…チュゥ??

「なっ…。」

 力任せに上半身を起こすと犬飼の上にいた美雨もストンと今度は膝の上に乗っかった。

 首を押さえ、みるみる顔に熱が集まるのが分かる。

「だぁ!出てけ!今すぐにだ!」

 きょとんとする美雨にますますの苛立ちを感じる。

「いいか。男の寝てる所に来ちゃダメだ。
 分かるか?」

 昨日のデジャブかと思うほどに美雨は首を横に振った。

「だって、おじいちゃんが好きな奴ならいいって。」

 こいつ…。何を…。

「それに麗華さんが人へのマーキングは…。」

「だぁー!それ以上言うな。
 いいから!頼むから出てけよ!」

 こちらの動揺や苛立ちはお構いなしに美雨は力が抜ける言葉を発する。

「…お風呂入りたい。」

「分かった!分かったから!
 風呂でもなんでもいいから行ってくれ。」

 しぶしぶ犬飼から離れ美雨は風呂場に向かった。

「なんだよ。
 普通に喋れるんじゃねーかよ。」

 ボソッとつぶやいて、うなだれている犬飼の背中に美雨の声がかけられる。

「ワンちゃんも一緒に入る?」

「っだぁー!入らねー!
 頼むからサッサと向こうへ行ってくれ!!」

 やっと静かになった部屋。
 そこで改めて冷静に思い返す。

 首に…つけられたのか。キスマークを…。

 そう思い返して、ますます顔が熱くなる。

 知らなかったとは言え、あんな奴に変な声とか出してなかったか?俺。

 その上…。

 反応してしまっている体に、ますますうなだれた。

 違う。これは朝だからだ。生理現象だ。
 あいつのせいのわけがない。

 心のザワザワを打ち消すように頭を乱暴にかきむしるのだった。