「慎くんっ」
ふと名前を呼ばれて顔を上げる。
え?
だれ?
夕日の逆光で、一瞬それが誰なのか分からなかった。
けど。
「慎くん、遅いよー」
もう一度聞こえた声に、それが吉田だと分かる。
え?え?
なんで?
なんで吉田がいるの?
もう帰ったんじゃ…。
困惑する俺の元へ走って来た吉田は、目の前で止まると「はい、これ」と小さな紙袋を俺に差し出した。
「えと…これ俺に?」
「うん。ほかに誰がいるの」
そう言って「ふふっ」と笑う彼女はやっぱり可愛くて。
「慎くん、ずっと女子に囲まれてて、渡すタイミングなかったから」
渡す?
じゃあ、この紙袋って…。
「これ、もしかして…」
「そう、チョコ。正確に言うとね、チョコケーキなの。…チョコケーキ、嫌いだった?」
「え?いやいやいや!大好きだから!」
嫌いなんて、そんなの有り得ないって!
「めっちゃ嬉しい。ありがとな」
「どういたしまして」
頰を赤く染めた彼女はとても眩しくて。
もしかして、吉田も俺と同じ気持ちでいてくれてるのかな、なんて。
「それじゃ」と背を向けた彼女に、声をかける。
もっと、吉田のこと知りたい。
もっと近づきたいと思う自分がいるから。
「えと…これからさ、夏海…って、呼んでもいい?」
返事の代わりに、今までで一番の笑顔を見せてくれた彼女に恋をしてるんだって。
これが俺の初恋なんだって、思っていいよね。
side 慎 おわり。



