俺、兄貴になりました④




「慎くんっ」



ふと名前を呼ばれて顔を上げる。



え?


だれ?



夕日の逆光で、一瞬それが誰なのか分からなかった。


けど。




「慎くん、遅いよー」




もう一度聞こえた声に、それが吉田だと分かる。




え?え?

なんで?


なんで吉田がいるの?

もう帰ったんじゃ…。




困惑する俺の元へ走って来た吉田は、目の前で止まると「はい、これ」と小さな紙袋を俺に差し出した。



「えと…これ俺に?」


「うん。ほかに誰がいるの」



そう言って「ふふっ」と笑う彼女はやっぱり可愛くて。



「慎くん、ずっと女子に囲まれてて、渡すタイミングなかったから」



渡す?


じゃあ、この紙袋って…。




「これ、もしかして…」


「そう、チョコ。正確に言うとね、チョコケーキなの。…チョコケーキ、嫌いだった?」



「え?いやいやいや!大好きだから!」




嫌いなんて、そんなの有り得ないって!




「めっちゃ嬉しい。ありがとな」


「どういたしまして」




頰を赤く染めた彼女はとても眩しくて。



もしかして、吉田も俺と同じ気持ちでいてくれてるのかな、なんて。



「それじゃ」と背を向けた彼女に、声をかける。




もっと、吉田のこと知りたい。



もっと近づきたいと思う自分がいるから。




「えと…これからさ、夏海…って、呼んでもいい?」





返事の代わりに、今までで一番の笑顔を見せてくれた彼女に恋をしてるんだって。




これが俺の初恋なんだって、思っていいよね。





side 慎 おわり。