日の光がよく当たる館の周りと、薄暗い森との丁度境目辺りに、少女はその姿を見た。

縦に長い布製のバッグを肩に引っ掛けた、着古された旅装姿の青年。

その顔には、驚きと喜びと無邪気な好奇心が浮かんでいた。


「やあ」


軽い調子で片手を上げて、青年は少女に声をかける。


「キミは、一人でここに住んでいるの?それとも、他にも誰かいるのかな。もし良かったら、ちょっと話を――」


青年が一歩足を踏み出した瞬間、鳥達がそれぞれパンの欠片を咥えて一斉に飛び立った。

その羽音に青年が言葉を途切れさせた隙に、少女もまた椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、背中を向けて駆け出した。

スカートを翻して少女が館に駆け込むと、すぐさまバタンと大きな音を立てて扉が閉められる。

残されたのは、鳥達が食べ残したパンくずと、少女が手もつけずに置いていった紅茶に、パンが詰まったバスケット、それから――


「……ビックリ、させちゃったかな」


呆然と立ち尽くす青年が一人。