しんとした庭に、草を踏む音がよく響いた。
それなのに、彼は視線を下ろさない。その眼差しは、空に浮かぶ月に向けられたまま。
途中で、やっぱり怖さが勝って足を止めた。
これは幻なのだろうか、夢なのだろうか。だから彼は、決して視線を下ろしはしないのだろうか。
二人共に目一杯手を伸ばしても触れられない。けれど、お互いの顔はしっかりと認識できる距離で、ルウンは立ち止まる。
しばらくジッと見つめていたら――彼が、トーマが、ようやく視線を下ろした。
「やあ」
出会った時と同じ言葉。けれどその顔に浮かぶのは、あの時とは違う、どこか思い悩んでいるような歪な微笑。笑っているのに、笑っていない。
迷うように二、三歩踏み出して、ルウンはまた足を止める。でも、我慢できたのはそこまでだった。
「……っ!!」
名前を呼んだ、つもりだった。けれどそれは、どうやら声にはならなかったようで。
「うおっぶ!?」
突然駆け出してきたルウンに反応する暇もなく、トーマは勢いよく飛び込んできた小さな体を受け止める。



