銀色の月は太陽の隣で笑う


テーブルの上はそのまま、ただトーマが残した紙だけを手にして、階段を一段ずつ上っていく。

上りきった先でぼんやりと部屋の中を見渡すと、ベッドに近づいて倒れこむようにしてうつ伏せに寝転んだ。ベッドがギシッミシッと不吉な音を立てる。

どこもかしこも、トーマの匂いがした。温かくて優しい、日向の匂い。

胸にポッカリと空いてしまった穴に蓋をするように、手の平を押し当てる。そして、まだ残っている温かなものを抱きしめるように体を丸めた。

胸に抱いた紙が、クシャっと微かな音を立てる。

わたしも、鳥になれたら良かったのに……と、不意にルウンは思った。

鳥になれたら、トーマの元へと飛んでいける。街に呑まれることも、帰り道を見失うこともない。ただ真っ直ぐに、彼の元へと空を駆けることができる。

考えながら目を閉じていたら、やがてルウンの体からくたりと力が抜けた。その拍子に、抱きしめていた紙がヒラリとベッドの下に落ちる。

その僅かな喪失感にも反応して、ルウンは更に小さく体を丸めた。





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