乾くのに時間がかかるだろうことは、一階のルウンの洗濯物を見れば一目瞭然だが、これでも旅人。多少の湿り気ならば我慢もできる。
「着ているうちに乾くしね」
着替えはひと組しか持ち歩いていないので、そうやって無理やりにでも回すしかない。
でも、そういう不便なところも含めて旅人で、トーマという人間は、それすらも楽しんでいる節があった。
「さて、そろそろ行くか。万が一何かあっても、ルンは呼んでくれないし」
何か困り事があったとき、どんな些細なことでも、ちょっと名前を呼んでくれればすぐにでも駆けつけるのに、ルウンは決してトーマを呼びはしない。
長く一人でいたことが理由でもあるのだろうし、自分は所詮、長い雨宿りをさせてもらっているだけの旅人であることも理由だろうとは予測できる。
それでも、呼んで欲しいと願ってしまうのは――
「僕の、エゴなんだろうな……」
バッグを枕元に戻してから階段を下りていくと、とぽとぽと聞き慣れた音が聞こえてくる。
それに、なんだかいい香りも漂ってきていた。
ちょっぴり沈みかけていたトーマの心が、その聞き慣れた音といい香りで、途端に上昇し始める。
その音は最近のトーマにとって、楽しい時間の始まりを告げる音であった。
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