神にそむいても



前島センセーは教室を見回し、小さくうなずいてから口を開く。

「飛鳥時代の区切りは色々ありますが、
 聖徳太子(ショウトクタイシ)が摂政になってからつまり推古(スイコ)天皇を正式に補佐する立場になってから、
 そして『南都(710)の名は平城京』、つまり平城京に都がうつされるまでの時代を飛鳥時代と呼んでます。
 じゃあ大森(オオモリ)君」

センセーはさっきツッコミを入れた生徒を丸めた古文の本で指した。

「はい」

大森くんは首をすくめながらうなずく。

「その時代に即位してる天皇の名前を挙げてみて。何人でもいいわ」
「えっと~。推古天皇」
「はい。それから?」
「斉明(サイメイ)天皇」
「はい。それから?」
「孝徳(コウトク)天皇」
「はい、いいわよ。それから?」
「天智(テンジ)天皇」
「はい!天智天皇、ありがとう」

前島センセーは嬉しそうに大きくうなずいた。


「今日はね、天智天皇の恋のお話をしたいと思います」

そう言うと私たちに背を向け、前のホワイトボードに黒ペンで
「天智天皇の禁じられた恋」
と書く。

そのスキャンダルな文字が躍ると、教室が少しソワソワしてきた。


禁じられた恋……。

胸のあたりがゾワゾワとまるでなにかが這ってるような居心地の悪い気分に襲われる。