孝くんはそのあとすぐに帰ることになった。

玄関先で私は智と見送る。


「智」

孝くんは小さく手招きをする。

ん?

そして、智も不思議そうなカオをしながら上体だけ傾けると、
孝くんは耳打ちをした。

んん?

孝くんがごにょごにょと話すうちに智の表情が険しくなってくる。

ん~?


孝くんが勢いよく智から離れる。

「へへ~」

「マジか……」

孝くんのしてやったり顔に対して
智のがっくりしたカオ。
対照的だ。


「美姫ちゃん」

そして今度は私を手招きする。

ん?

おそるおそる私が孝くんに上体だけ傾けると、
チュッ、
ほっぺにふれるだけのキスをされた。

えぇ!?


「おい!!孝、いいかげんにしろよっ」

智がけっこうマジで怒りかけてる。

私は孝くんの唇がふれたほうの頬をおさえてボーゼン。

「智のバーカ!これくらいしなきゃ気がすまないっての~」

悪態をついたあと孝くんはケラケラ笑いながら、
逃げるようにして帰っていった。