「あのさ……」
急にマジメな口調になる孝くん。
驚いて思わず食べる手が止まった。
「うん?」
「2日目の自由時間あるでしょ」
「あー、あるね~」
「あの時間、オレと一緒にまわってくれる?」
照れた表情の中に、瞳に灯った熱情が本気だと告げている。
まぶしく差すような痛みに、私は目をそらすようにうつむくしかなかった。
ウチのガッコーには
ジンクス―
『研修旅行2日目の自由時間に一緒に過ごす男女はうまくいく』―
がある。
だから、この時期は片想いの相手とその時間を過ごそうと約束をとりつけてることで頭がいっぱいになってる生徒が多い。
そして、約束の取り合いでケンカしてる場面にも今日の昼休み遭遇した。
「ダメ、かな?」
あからさまにしょんぼりしてる様は昔飼ってた柴犬を思い出す。
「……ダメ、とかじゃないんだけど」
「うん」
「で、でもっ、でもさっ。
孝くんだったら一緒にまわりたいって言ってくるコたくさんいるでしょ?」
「うん……」
それは否定しないんだ。
多分、今日までに私が知らないだけで何人もの女のコから誘われているのかもしれない。
「でも、オレが一緒に過ごしたいのは美姫ちゃんだからっ」
それきり、私たちは黙ってしまった。
お互いが発言するタイミングを見計らいながら、カレーライスを食べることに集中する。

