「行くぞ、美姫」
「ど、どこへ!?」
「智の処に決まっているだろう」
秋保さんが私を見ていて、
嬉しそうに涙ぐみながら大きくうなずいてくれた。
「急ぐぞ」
皇子は玄関とは違うほうへ向かう。
私は急いでそのあとを追う。
チラリと秋保さんを振り返ると、彼女は頭を下げていた。
「美姫さま、どうかお幸せに」
秋保さんの声が後ろでした。
彼女の人柄をあらわすような柔らかな声。
秋保さん、今までありがとう。
本当はちゃんとお礼を言いたい。
だけど、今は感傷にひたる場合じゃない。
皇子の背中をただ夢中で追いかける。
皇子は人に会わないですむルートや時間帯を熟知していて、
宮中の外に出るまで一度も人とすれ違うことはなかった。

