「どうしたんですか?」
小声できくと、
皇子は廊下をキョロキョロしたあと私に近づいてくる。
「美姫、耳を貸せ」
「へ?」
「いいから耳を貸せ」
皇子は強引に私の耳元に顔を寄せると、
「智と逃げるのだ」
と言った。
えぇ!?
声にならない声を上げて皇子を見ると、満足そうにうなずく。
ど、ど、どういうこと!?
私がよっぽど驚いたカオをしてたのか、
皇子は小さく笑って
「智を見つけたぞ」
とニヤリしたり顔。
えぇ!?
「で、でもっ!!」
皇子は私が言いたいことがわかったのか、
真顔になって首を横に振る。
「お前たちは幸せになれ」
え……。
「俺と姫はこの国のこの小さな世界でしか生きられないのだ」
皇子は少しだけ哀しそうに笑った。
「で、でも、姫がっ」
「姫にはもう言っておる。お前が伯父上の妻になるのだと」
「え、いつですか……?」
「昨夜」
え?
今朝、姫はそんな様子、少しも感じさせなかった。
そんなことを告げられたなんておくびにも出さず見送ってくれた。
それどころか、私の冗談にも乗ってくれた。
なんて強い人なんだ。
私とは外見こそ似ているけれど、やっぱりなにもかも違いすぎる。

