「美姫」

ピンと背筋の伸びたような声。

「はい」

私は顔をゆっくりと上げる。

「お前は俺たちに遠慮していないと言うが、俺は決してその言葉信じておらん。
 智がお前を捨てる事も、お前が伯父上に嫁ぐと言い出した事も、
 お前たちの事を今まで見ていた俺には到底信じられるものではない」

「………」

昨日とはうってかわって皇子のやさしいカオとその口調に気がゆるむ。

あぁ、ダメダメ。
油断したら涙が出ちゃう。

きゅっと唇をかみしめた。


「きっとお前には俺たちには言えない何かを抱えていると考えている」

「い、いえっ!
 決してそのようなことはありませんっ」

皇子はあきらめたように小さく何度かうなずくと、
「もうよいもうよい。お前の気持ちは分かった。
 ……今日はもう下がれ」
と姫のほうを見ながら言った。

姫と皇子はひしと抱き合うのを見て、私は急いで部屋を出た。