「もうっ美姫ったら!
 散歩だなんて、心配させないで頂戴!
 お兄さまにこの間きつく言われたばかりじゃないの」


あの人が言うように姫は私のことを心配してくれていて、
帰るなり玄関先でカミナリが落ちた。

「ごめんなさい……」

私は力なく頭を下げる。


「姫、……」

“話があるの。”

言葉が出てこない。


姫は私の顔を見て目をしばたたかせながら、
「どうしたの?顔の色が冴えないわ」
と心配そうに私の顔をのぞきこんできた。

やだっ。

私は顔をそむける。


今は見られたくない。

娘の姫にも冷酷な人。

でも、あの人と姫は血がつながった親子。

それに、姫に対してまったく恨みがないかといえばウソになってしまう。

少し冷静になる時間がほしい。


「美姫?」

不思議そうな姫の声。

「ごめんなさい。散歩がんばりすぎて疲れたみたい。
 ちょっと部屋でゆっくりしてきます」

急いで言葉を紡ぐと姫をすり抜けてその場を去った。