「お兄さまっ」

姫に笑いかけて部屋を出ようとする皇子の胸に姫が飛び込むと、
それに応えるようにひしと姫を抱きしめた。


「お兄さま、もう少しだけお返事待って下さる?」

「勿論だ」

「お兄さまの足枷にはなりたくはありません。
 だけど、お兄さまへの想いを断ち切る事も伯父さまのもとへ行く事も私には耐えられません。
 どうすればいいのか、もう少しだけ考えさせて」

「……ありがとう姫。
 すまんな、俺の為に。こんなにもやつれてしまって」

そう言うと、皇子は姫にキスをした。

こんな時間だし、最後までスることはないと思うけど、
なんとなくいづらくて私は自分の部屋へ戻る。


ミケがついてきてたみたいで、
部屋へ戻る途中私を追い抜いてから立ち止まり、そして振り返った。

「ミャア~ン」

そういえば、朝もいてくれたっけ。

心配してくれてるのかな。

ミケを抱えてそのまま抱きしめると、ミケは私のほっぺたをスリスリ。

「ありがとう」

あー、ミケは癒されるなぁ。


「美姫さま」

後ろを振り返ると、心配そうに私を見つめる秋保さん。

「私も何かお力になれるといいのですが」

「ありがとう。気持ちだけで充分だよ」

「美姫さま……」


秋保さんは泣きそうになってる。


こんなにも気遣ってくれる人たちに私は囲まれてる。

もともとどこの人間ともわからないのに、みんなあたたかい。


ねぇ智。

今どこにいるの?
皇子の言ってた“危険な目”に遭ったりしてない?

智、どうか無事でいて。



思いやる心 終