「皇子にも近頃は縁談が持ち上がっています」

え!?

私にはひどく驚く内容だった。

だけど姫は知っていたのかもしれない、泣き声が激しくなった。

「皇子には跡継ぎも必要。
 但し、あなたがそれをする事は許されません。絶対に」

姫は懇願するような瞳で彼女を見る。

「おそばにいることも適わないのですか……?」

「………まだそのような頭の可笑しなことを言うのですか?」

皇極天皇はバカにしたように笑った。

なんだか自分までもバカにされてる気がする。
悔しいけれど、私にはなにも言えない。


「幸いにして、あなたを妻にと兄上が仰っています」

えっ!

やっぱり昨日の孝徳天皇の態度。
そういう特別な感情があるんだ……。

「いい機会です、その道を進みなさい」

「嫌よ、嫌!絶対に嫌!
 お兄さまと離れ離れになる上に、伯父さまと結婚するなんて!」

皇極天皇は冷ややかに目線だけを姫に向け、ため息をつく。

「……皇子にももう伝えました。
 これは一国の問題でもあります。
 あなたの振る舞いでこの国の民を辛い目に遇わせるかもしれない事を自覚しなさい」

皇極天皇はそれを告げると出ていった、呆れたような表情をしながら。