神にそむいても



「あなたと皇子、二人の事は私の耳に入っていますよ」

姫の瞳が一瞬ゆらいだけど、
すぐに「だったら何ですか?」と冷静に返した。

すると、皇極天皇は厳しい視線を姫に向ける。

それはまるで私まで怒られているような気持ちになる。


「皇子が未だ帝になっていないのは、
 あなたとの関係を一部の者から咎められたからなのですよ」

え……。

私は初めて知る話に驚いたけど、姫は知ってたみたい。
唇をかみしめて悲しそうに目を伏せた。


「あなた方二人は私がお腹を痛めて産んだ子。
 それがどういう意味かは分かっていますね?」

まるで私まで非難されてる気がする。

姫はたえきれなくなって涙ぐんでいた。


「私が公務で忙しい事をいいことに。
 兄上からもあなた方の関係についてきつく言われました」

「……お兄さまには何かもう言われたのですか?」

「えぇ、何度となく」

「お兄さまは何と?」

「……皇子はいつもあなたを庇っています」

「庇う?」

「“俺が好きでしている事。姫は無理矢理応じているだけだ”と」

それをきいて姫はわぁっと声を上げて泣き崩れる。

「皇子がこの国の為に懸命に動いている事はあなたも存じているかと思います。
 そのような人の邪魔をして、あなたは気が咎めないのですか?」

だけど、そんな娘の姿を見てもちっともゆらいでいない。
それどころか皇極天皇は言葉をかぶせた。