わたし達とっても仲良しなんで間に入るのやめてもらえませんか?

『姉』

全国姉妹大会が開催されるや否や初出場にも関わらず格の違いを迂闊にも見せつけて大多数の他姉妹の嫉妬の嵐を呼び起こし運営から直々に今後の出禁を通達されることが容易に予測できる私達だが、私達の部屋は意外にも別々のものとなっている。前半部分は決定的に仮定、直接的に婉曲してみた次第。実際にあってもやたら局部的な関係に特化した資格だから実用性はないけど、記念受験にはなりそうだ。姉妹検定とかもあったらいい、のか?採点されるのは癪だな。そうか、お互いに採点しあいっこすればいいのか。縁のこんなところも、解いてみようかな、とか。色々満点では、と思ったけどこれ以上妄想できる要素が無かったので話題提起してしまったことを省みた。

二階建ての質素な我が家の階段を上がって右側が縁《えん》、左側が私だ。造りは私の方が少し広い。意味の善し悪しともに含んで、私の方が物が少ないというのもある。白い机とイス、毛糸の絨毯、生まれた時からあるクローゼット、小さい本棚があるくらいだ。あとはベッドか。この部屋の中で最も価値のあるものは何かと尋ねられたら該当するのがそのベッドだろう。よく縁と一緒に寝てるから。あ、深い意味じゃないよ。そりゃあ私の名前にもなってるその概念はとっても深いけど。

いつも、ではないのは縁が疲れていると自分の部屋でそのまま寝てしまうからだ。そういう時は立場変わって私が縁の部屋にこっそりバレながら入って、寝込みを襲うかのような姿勢になりつつもベッドに潜って縁の隣を味わっている。縁の部屋のベッドは私のより小さいから足を思い切り伸ばせないけど、縁に絡みつけば解決する。

縁の身体は身内贔屓を最大限含んでいるのを肯定しつつも極上なので、どうしても抱き枕の売れ行きを懸念する。縁が市場に流通したら様々な経済効果を及ぼすだろう。戦争に繋がる恐れもある。他人の戦争はどうでもいいけど万が一縁が危険に晒されたりでもしたら漏れなく皆殺しに、できたらいいのに。もしものために超能力の一つや二つ三つ、一つ飛ばして五つくらいは持っていたい。縁と手を繋ぐと他の人間が私達の半径三メートルの範囲に近寄れなくなる能力とか、幼い頃の縁を今の私が観察するためや無謀にも縁に接しようとする人間をやめるべき人間を事前に排除するために必要な時間移動能力とか。

縁のためなら世界を敵に回したい。まぁ既に地軸の傾き分くらいには回っているけど。みんな地球人だから仕方ないのか。いや、仕方なくはない。でもどうにもならない。そもそも全世界が味方につくことなんて、あるのか。あーあ、いっそ地上の大気に頼らない宇宙人になれたら。縁と宇宙旅行する日も近いことに期待しよう。いざ夏休みという時に海よりも大規模な娯楽を考えてしまうなんて、私ったら早とちり。

あ、縁の癒しの効果について語るはずが、つい縁でも私でもない話を挟んでしまった。不覚。深くお詫び申し上げます。縁と私に。まったく、私達の間には何者も入らせてはいけないったら。その点ベッドの布団は外から包み込んでくれるから理解があると言える。そうあるべきだな。うむ。

縁と布団の共通点は抱き心地が良いということ、相違点はそれ以外の全てである、と比べられているのかよく分からない比較対照をしていたところ、「ご飯だよー」と縁の声が一階から聞こえてきた。もうそんなに経ったのかと精神と時の部屋に例えても遜色ないと時間だけに即席で評価した私の部屋を出ようと準備する。

例の玄関先のじゃれあいの後、私はぐたぁな縁より先に自分の部屋に戻って学校の持ち物の処理や夏休みの具体的な計画のための調査をしていた。こう言ってみると縁に放置遊び(ぷれい)を仕掛けたように思えるかもしれないが、そんな俗物的な遊びよりも遥かに大事な縁との遊びについて企画していたので間接的には放置していない。私は。これが倒置遊び(ぷれい)。ごめん遊ばせ。

夏休み前日でもみっちり授業を受けさせてお約束のプリント大量返しを炸裂させるこの学校は教育界の鑑なのではないかと抑えきれない感情を抑えながら、夏休み明けに提出する、宿題以外のプリントをまとめて手にし、部屋を出る。遅れて「はぁーい」と食事に対する熱意を片手に返事した。おてての熱《あつ》と紙《かみ》、合わせて厚紙《あつがみ》。なーむー。

今までで最高に意味不明かつ無意味な発言に自分でも驚くばかりかと思いきや、かえって冷静さを取り戻した私は確かな足取りで階段を降りお仏壇を横切って居間についた。居間の中央にある低めのテーブルには、厚紙のような、厚紙みたいな……駄目だ、何も厚紙に例えられない。厚紙が伏線だったという未来をつくることすらできない。そんなただの失敗作な私の言葉遊び(ぷれいじゃないよ。言葉攻めじゃな)に対して、卓上の品々はどれも優秀作品だった。

ご飯、味噌汁、焼き魚、サラダ、肉じゃがの団体が私を迎えてくれる。王道を征く顔ぶれだ。私にとって王は縁だけど。というより姫か。私も姫で、王の階級は廃止。これで海賊王は海賊姫に、王子様は姫子様に、王貞冶は姫貞冶へと時代が変わっていくのだ。週刊少年誌と野球界隈に戦慄が走りそう。あ、女王でもよかったな。縁に隠れた女王気質、エスっ気があったとしたら、それも味があって癖になりそう。あくまでぷれいの一貫だけど。しかも仮定の話だけど。一方現実の縁は優しいからその気性は無いだろうがね。

そして今日の家庭的で優しい味な料理を作ったのは、縁だ。縁は中学生になってからここ最近、私と縁の分の食事を作ってくれるのだ。始めたての頃はお料理よく頑張ったで賞なら授与してあげたいかなといった腕前だったが、段々と技能を向上させていき今では立派な家庭料理を作れるようになった。縁は偉い、というか素晴らしい妹だ。人間だ。ちなみに偉そうに評している私は目玉焼きしか作れない。

床に座って器に乗っているかつて生き物だったものを見ていると、「料理は化学」と最近呟くようになった縁がエプロン姿でこっちに来た。可愛いは美学。ふむ、哲学。

「おまたせー、お姉ちゃん」

「ううん、むしろ早かったよ」

本当に。あの悶えてた縁はどこに置き去りにしたのやら。その切り替えの俊敏さには可愛くて機敏な小動物を彷彿とさせる。縁をペットに……ごくり。さっきの妄想とは立場が逆転している。けど今度は可能性あるのでは。なぜならくすぐりの時に、縁は受ける側なら満更でもないと思っている気がしたからだ。ペットごっこ、としてなら誘って戯れてもよろしくては、と心の息を荒くする。妹への好奇心が未だに収まらない姉って。素敵。よし、食後、入浴後に提案しよう。わくわく。

いつの間にかターゲットになっていることに気付いているはずもない縁はエプロン姿のままテーブルの向かい側にちょこんと座る。面倒だから着っぱなしだそうな。
準備も整ったので食べるとしよう。

「「いただきます」」

二人声を合わせて縁の手により美しくなった生物の遺体を喰らう宣言をする。こいつらも縁に消化されるなら光栄だろうなと少し妬みが入り、関係あるかどうかは置いておくがどんどん箸を進めていく。やっぱり美味しい。肉じゃがとか、いい味。肉じゃがは初めて作られたから、煮込み料理だけど気分は新鮮だ。あと「味」って「妹」と似てるから尚良い。いい妹。

「この肉じゃが美味しいね。」

「でしょー?よくできたと思ったんだっ。」

嬉しそうな縁を見て心の芯からほっこり。これも肉じゃがのおかげだ。なるほど、お嫁さんに作ってもらいたい料理上位の力を思い知った。それに「じゃがいも」の「いも」は「妹」の「いも」だからね。……だったらもっと食べたくなるのに。どうか肉じゃがのような温かい態度で見逃してくれたら嬉しいもん。

「……って、さっきのぉー」

サラダをほおばっていると縁が何か言いたげな顔で何か言ってきた。「ん?」と疑問に思ったがすぐに「ああ」と察知する。
こちょこちょぐちゃぐちゃしたことね。レタスの上に添えられてるサラダチキンの原形である三歩進んだら忘却する鶏だったならそうしていたとしても、やはり縁は切り替えが早いとはいえ忘れてはいなかったようだ。しょっちゅうやることでも無いし。

「これから夏休みだから調子乗っちゃった」

率直な気持ちを伝える。でもよく考えてみたら姉が妹にちょっとしたイタズラを執り行うのに理由なんているのだろうか。ひいては姉が妹を愛しく思うのにきっかけなんているのだろうか。理由が結果で、現状で、最良だ。今の縁ともっと触れたい、その欲望は連続して右肩上がりだ。

「……お姉ちゃんったら急にこちょこちょしてくるからぁ」

あの夢中な時間を思い出したのか、縁は箸を持つ手を内側に寄せて、もじもじしながら言う。少しずつ小声になっていって可愛い。恥ずかしがってる可愛い。何故かこっちまでもじもじしそうになる。

「ついつい、縁の反応が可愛かったからさ」

調子に乗ったまま極めて誠実な説明をした。これ以上の理由などない。感情の自由を優先したゆえ。

しかし可愛い、で済む程度だったら停滞してしまうのだろう。
停滞を望むか望まないか。
姉妹として今後もこれまでと変わらない関係であり続けるのか。

そんなことは知らない。
私が知っているのは、縁のことと、縁が好きだということ。
信じるのは起こることではなく、思うことだ。

「……ぅん」

休符を空けて紅く頷く縁。
縁の可愛いも、可愛い以外も。
知ってるし、知りたい。



今晩は、ぷれいぷれいって妄想してたけど。

ぷれいって、プレイだった。

そんな姉妹の階段上る。

仄暗い街灯の下、火照るベッドの上で。